じじ日報

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ハエの狂気


科学者はハエの空間知覚に関する実験を計画していた。


ピンポン球程度の透明球体を用意し、直径1ミクロンのワイヤをx,y,z軸として最大径の内側に張り、ショウジョウバエを交点に固定し原点とした。各ワイヤの一端を圧電素子に接続し、球体の外に固定する。圧電素子からの出力を増幅してコンピュータに取り込んだ。これで、ハエが飛ぼうとした方向を三次元で知ることができた。


一方、使用した球体は液晶あるいは有機ELの球体スクリーンとして作製した。このようにしてハエには仮想現実を与えた。例えば、明ー暗、緑ー茶色ー光などの色やパターン情報、また、画像情報などを任意に与えられるようにした。


このスクリーンに映し出される映像情報はハエの動きに連動して動き、ハエは例えば光りに向かって直進しようと飛ぶとき、真正面に明るいピクセルがあり周囲のパターンはハエの後方へと流れていくように仕組んであった。これに匂い成分を加えれば極めて完成度の高い実験装置となった。


完成したハエに対する仮想現実、世界シミュレータを使って実験を開始した。ハエはそれが現実であると認識し、やりたいことをやりたいようにやり、飛び回っている。ノートパソコンには時系列のデータが流れ込んだ。しばらくの間は、少なくともそのように見えた。


あるときハエは、はたと疑問に思った。「この世界は本当にここにあるのか?」と。ハエはいても立ってもいられなかった。どうしたら確認することができるのか。仮に周囲の仲間の存在を疑ったとしても、彼らが存在して生活しているのかすら既に分からなくなった。そんな疑心暗鬼になっている自分だけがその世界に存在し、その他の存在、世界も、宇宙すらもはや信用できなくなった。


ハエは、周囲のあらゆる仲間を攻撃した。もし、この世界が現実ではないのであれば、そこにいる仲間も現実には存在しない。だから、何をやっても良いし、なんとかして虚構の世界のしっぽをつかみたかった。しかし、何をしてみても彼の実験からは何も得ることができなかった。科学者はその間、様々なデータを蓄積していった。


彼は、もしかするとその世界が何者かによって作り出された仮想現実ではないかとの疑念を持ち始めていた。しかし、何をしてもその「世界」から出ることはできない。それでは、その誰かを失望させればその世界からつまみ出されて、あるべき世界に出られるのではないか。そう思った彼は、唯一残された手段として自殺を企てた。


こうして彼は、彼が妄想した疑念が正しかったことを証明することに成功した。なぜなら、実験者はそれ以上のデータを取得できないくなってしまったからだ。しかし、この事実を認識できたのは、彼の世界を作り実験をおこなっていた科学者だけであり、不幸にも願いのかなった彼には知ることが叶わなかった。


帰宅した科学者は、時折ハエが訳も無く死んでしまう理由について考えていた。

テレビからはいつものように通り魔殺人のニュースが流れていた。



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